近年,公共施設や商業施設など様々な人々が行きかう空間における人流検知の需要が高まっている.COVID-19感染拡大防止のため,ビルや施設の事業者や管理者は人流計測により施設利用者数の把握や密検知を行う必要性に追われている.感染防止のみならず,滞在者数を常時把握しておくことは,地下街などの構内において突発的な火災やゲリラ豪雨等による水害の危険性に対しても効率的な避難誘導につなげることができる.
画像処理技術の飛躍的な発展により,近年ではRGB動画像などから人物を検出するシステムや手法も数多いものの,それらは基本的に顔などの個人情報を含む情報を直接取得するものであることから,利用後ただちに廃棄される場合にも通行者のプライバシーへの不安を払拭することは難しい.これに対し,物体への距離情報のみを取得する3次元測域センサ(LiDAR)や深度カメラなどの3次元距離センサを用いて,より低いプライバシーリスクで人物の存在や姿勢を検出する手法が注目を集めている.3次元距離センサは赤外線パターンの照射とカメラ視差を用いる方法や,赤外線ビームのToF(Time of Flight)計測により,センサからの各方位に対し最も近い物体への距離を計測し,3次元点群を構成する.
3次元点群を用いる人物検出手法の多くは定位置の人物の姿勢検出を目的としており,歩行者同士が視野を遮る状況は基本的に想定されていない.一方,公共空間における人流検知では人物同士のオクルージョンや太陽光などにより,人物を捉えた点群情報は不完全であることが多い.我々は3次元LiDARを通行者の多い市街地に設置し取得した通行者の3次元点群を用いて,歩行者のトラッキング(軌跡導出)を行う手法を提案している.提案手法では,点群の欠損および複数人物の接近による点群の結合といった点群の不完全性による人物セグメントの検出失敗を考慮し,複数歩行者の点群が合体して単一のセグメントとして観測される場合および単一人物の点群が複数のセグメントとして観測される場合の2つの状況の推定とカルマンフィルタによるトラッキングを組み合わせることで,堅牢なトラッキングを実現する.
デモ動画
発表論文
- Riki Ukyo, Tatsuya Amano, Akihito Hiromori and Hirozumi Yamaguchi, "Pedestrian Tracking in Public Passageway by Single 3D Depth Sensor", Proceedings of the 2022 IEEE International Workshop on Pervasive Computing for Vehicular Systems Co-located with IEEE PerCom 2022, pp. 581-586
- 右京 莉規, 天野 辰哉, 廣森 聡仁, 山口 弘純, 東野 輝夫, "公共空間における三次元点群の不完全性に対して堅牢な歩行者トラッキング手法", 情報処理学会論文誌, Vol.63, No.8, pp.1361-1370 (2022-08-15)
- Masakazu Ohno, Riki Ukyo, Tatsuya Amano, Hamada Rizk and Hirozumi Yamaguchi, "Privacy-preserving Pedestrian Tracking using Distributed 3D LiDARs", In proc. of 2023 IEEE International Conference on Pervasive Computing and Communications (PerCom 2023) , pp.43--52
- IEEE xplore: https://ieeexplore.ieee.org/document/10099061
- Arxiv: https://arxiv.org/abs/2303.09915