人や物の屋内位置情報は様々なアプリケーションに応用できると考えています.例えば,ショッピングモール,介護施設,オフィスなどで人の動きを把握したり,探し物の位置を表示したりするものを想定しています.しかし,多数の物にWi-FiやBLEの電波を発信する小型のデバイス(タグ)を取り付けることは,充電や電池交換に伴う管理の手間が問題となります.そこで本研究ではBackscatterタグの位置推定を目指して,到来角推定を行っています.
Backscatterは周囲の端末から発信されるWi-FiやBluetoothなどの電波の反射/吸収の状態を切り替えることで通信を行う技術です.Backscatterはタグ側で搬送波を生成する必要がないため,超低消費電力での通信が可能です.またBackscatterタグは周囲の電波を散乱する際に,固有の周波数シフトを生成します.各タグのシフト周波数とそれに対応するタグの設置場所の組をデータベースなどに登録しておくことで,シフト周波数に応じた対象の識別を行います.
Backscatterタグの到来角推定にあたっては,受信信号からシフト周波数成分のみを抽出する必要があります.このため,本研究ではFFT(Fast Fourier Transform)により周波数領域において受信信号を分離し,シフト周波数成分のみを抽出します.その後,IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)により,抽出した周波数スペクトラムを時間領域信号に変換し,到来角推定アルゴリズムであるMUSIC法を適用します.