ひとなび® によるヒューマントラッキングと人間中心デジタルツイン

ひとなび®は複数LiDARでビルや公共施設など広範囲の人流を捉えるしくみです.複数人の匿名軌跡推定技術や,スマホで人流仮想世界に没入するためのデジタルツイン認証技術などを開発します.

「ひとなび」とは?

「ひとなび®」は、主にLiDAR(Light Detection and Ranging)センサーを活用し、公共空間や商業施設などにおける人々の流れ(人流)を高精度かつプライバシーに配慮した形で計測・解析するシステムです。基本的には、LiDARセンサーが照射したレーザー光の反射を捉えることで得られる3次元の点の集合データ(点群データ)を処理する 。この点群データから個々の人物を検出し、その移動を追跡することで、通行量、密度、速度、移動軌跡といった情報をリアルタイムに取得します 。  従来のカメラベースのシステムが持つプライバシー懸念を克服することを重要な動機とし、LiDARから得られる3次元点群データを匿名性を保ちながら処理するアルゴリズム開発に注力してきた。

プロジェクトは2013年頃、群衆センシングとソーシャルメディア情報を融合して場の「雰囲気」を可視化するという初期コンセプトから始まりましたが、次第にLiDARを用いた客観的かつ高精度な人流計測へと移行してきました.この過程で、複数のLiDARを用いた広範囲なトラッキング、センサー間の人物再識別、エッジコンピューティングデバイス「Hitonavi-µ」の開発などに取り組んできています.

2020年には、研究成果の社会実装を加速するため、山口教授らが共同創業者となり、大阪大学発スタートアップとして株式会社HULIXが設立されています。「ひとなび」技術を核とした人流・空間解析プラットフォーム事業を展開し、当時OUVC(大阪大学ベンチャーキャピタル)からの投資も受けました.

プロジェクトは、グランフロント大阪での初期展示から、大規模商業施設(EXPOCITYなど)、南海なんば駅周辺、和歌山市での実証実験...と、段階的に規模と複雑性を増しながら実世界での有効性を検証してきました。特に和歌山市での実験では、デジタルツインプラットフォームと連携し、モビリティサービスや回遊施策の効果検証に活用されるなど、スマートシティ実現に向けた具体的な応用が進んでいる。

主要な実証実験と人流デジタルツインとしての実世界展開

様々な実環境での実証実験を通じてその有効性と実用性が検証してきました。一例を示します。

  • グランフロント大阪「The Lab.」(2013年): プロジェクト初期のコンセプト展示と技術実証の場 。  
  • 中国大手企業のオフィスビル (2017年): 海外での初期導入事例 。  
  • 大阪府吹田市の大規模ショッピングモール (EXPOCITY) (2018年, 2020/21年): HULIX設立前後の主要な実証実験。歩行者の軌跡からリアルタイムで混雑状況を予測したり、消費者行動を分析する試みが行われた。フードコートなどでのプライバシーに配慮した混雑状況分析が可能であることが示された 。  
  • 南海なんば駅周辺 (2021年11月): 「なんば駅周辺における道路空間再編社会実験」の一環として、歩行者天国化されたエリアの人流変化を9台のLiDARを用いて計測。大阪大学とHULIXが共同で実施、メディアでも報道されました。 
  • 阪急阪神不動産(梅田駅周辺)(2021年7月): 「夏の手ぬぐい装飾」イベントにおいて人流データ解析を実施 。  
  • 和歌山市(和歌山城公園、城前広場周辺)(2022年8月~, 2023年12月): まちなかの賑わい創出を目的とした複数回にわたる実証実験。LiDARによる通行量把握に加え、2023年の実験では、大阪大学とHULIXがNICTの委託研究として開発中の「住民・自治体・事業者のトリプレット共創型デジタルツインプラットフォーム」と連携。複数種類のモビリティ運行や謎解きイベント、モバイルスタンプラリーといった回遊施策を実施し、その効果を「ひとなび」で計測・分析。得られたデータをデジタルツインPFで処理し、将来の街づくりに向けた施策検討への活用可能性を検証した 。  

関連主要論文

  • Higuchi, T., Yamaguchi, H., & Higashino, T. (2012). Clearing a Crowd: Context-supported Neighbor Positioning for People-centric Navigation. In Proc. IEEE Pervasive 2012.
    (モバイルセンサーを用いた群衆内での近隣者位置特定。初期の関連研究)
  • Higuchi, T., Fujii, S., Yamaguchi, H., & Higashino, T. (2014). Context-Supported Local Crowd Mapping via Collaborative Sensing with Mobile Phones. Pervasive and Mobile Computing, Elsevier.
    (スマートフォン協調センシングによる群衆マッピング。初期の関連研究)
  • Yamada, Y., Hiromori, A., Yamaguchi, H., & Higashino, T. (2018). 測域センサを利用した高精度な路線バス乗降計測システム. 情報処理学会論文誌ジャーナル
    (LiDARを用いたバス乗降客カウンター開発。LiDAR応用の初期事例)
  • Ukyo, R., Amano, T., Hiromori, A., & Yamaguchi, H. (2022). Pedestrian Tracking in Public Passageway by Single 3D Depth Sensor. In Proc. PerVehicle 2022 (Workshop).
    (単一3D深度センサーによる歩行者追跡。LiDAR応用技術)
  • Ohno, M., Ukyo, R., Amano, T., Rizk, H., & Yamaguchi, H. (2023). Privacy-preserving Pedestrian Tracking using Distributed 3D LiDARs. In Proc. IEEE PerCom 2023.
    (分散LiDARを用いたプライバシー保護型歩行者追跡。)
  • 大野真和, 右京莉規, 天野辰哉, & 山口弘純. (2023). 点群特徴量と拡散モデルを用いた人物軌跡再構成手法の提案. DICOMO 2023.
    (点群特徴量とAIモデルを用いた軌跡再構成(再識別)技術)
  • Ohno, M., Ukyo, R., Amano, T., Rizk, H., & Yamaguchi, H. (2024). Privacy-preserving pedestrian tracking with path image inpainting and 3D point cloud features. Pervasive and Mobile Computing, Elsevier.
    (経路補間と点群特徴を用いたプライバシー保護型歩行者追跡。)